狂う

アメリカのプロゴルフツアーの構図はピラミッド型のようになっており、PGAツアーを頂点に、その下には多くのミニツアーがあります。


ミニツアーはアメリカ全土で開催されており、大きいものから小さいミニミニツアーのようなものまであります。


私はフロリダ州を拠点に試合に出ていましたが、フロリダ週は特にゴルフツアーが多く、毎日試合に出場することができるような環境でした。

学生時代、私は大学のゴルフ部に所属していました。アメリカのゴルフ環境は、日本に比べ信じられないぐらい良く、私はスポンサーが付いてくれていたり、大学からゴルフ奨学金をもらったりしていたので、毎日がゴルフ中心の生活でした。


2000年夏、当時私は19歳。学校のゴルフシーズンがすべて終わって、夏休みです。アメリカの夏休みは3ヶ月半あります。


それまで私は、18歳以下のジュニアの試合、大学の試合、アマチュアの試合しか出場した経験がありませんでした。「プロの試合に出よう」と思い、3ヶ月半、フロリダから離れ全米中のプロのミニツアーを転戦しました。


最初にある程度の軍資金を持って、と言っても微々たるもので。試合の賞金で稼いで、そのお金で転戦し、お金が底をついたらフロリダに帰ろう、というなんとも無謀な計画というか勢いで出発しました。


あらかじめ大きな大会にはエントリーしておきます。移動途中にあるゴルフ場で行われている大会に飛び入りで参加したり、各地の有名ゴルフ場に所属しているプロに勝負を持ちかけ道場破りのように力試しをしたり。


試合の合間をぬって公共の公園を探して、走ったり、トレーニングをしたり。


安モーテルを探して泊まったり、賞金を稼げなければ車の中で寝たり。


それまでフロリダ州を出たことがなかった私は、大きな全米地図を片手にアメリカを車で横断縦断しました。


初めてプロの試合に出場した私は、度肝を抜かれました。


ミニツアーの世界は美しくはありません。試合の1番ホールのティーグランドで挨拶をしても無視されたり、グリーンのラインを踏まれたり、肩をぶつけられたり、スイング中に音を鳴らされたり。


自分が勝つために、ゴルフのルールに反していなければ手段を選ばないという世界でした。


PGAのようなトップの世界では美しく華やかですが、ミニツアーのような底辺の世界では、何が何でも自分こそがトップへ登りつめてやるという選手ばかりです。


私は、完全にプロツアーの世界にすっかり魅了されてしまいました。


この武者修行から帰ってきて私はすぐに大学のゴルフ部を辞めました。


いっそ大学も辞めて完全にプロに転向しようと思いましたが、アメリカに在住するにはビザが必要で、当時の私は学校に席を置いていなければビザが有効になりませんでした。


昼間は試合に出場し、夜間に大学の授業を受けるという生活をしていました。


ミニツアーのプロ選手の中でプレーしていると、自分が少しずつ変貌していくのがわかります。


目つきが変わっていきます。戦う鬼のようになっていきます。


当時私は、他の選手になめられてはいけぬと、頭を剃って丸坊主にし、眉毛も剃っていました。


当時はトレーニングもしていたので、体重が80キロありました。今は60キロですが。今考えてみればありえない風貌です。


プロツアーの底辺の世界は、綺麗ではないどろどろの世界ですが、自分の力がすべてという勝負の世界にどっぷりはまってしまいたい、という気持ちが生まれてきます。

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